椎本(1・2) 匂宮、宇治に中宿り

椎本 朝の月涙のごとくましろけれ御寺の鐘の水渡る時(与謝野晶子)

さて椎本です。「しゐがもと」、宇治十帖には読みにくいが読めれば雅を感じる巻名が多い。

p12-22
1.匂宮、初瀬詣での帰途、宇治に中宿りする
 〈寂聴訳巻八 p140 二月二十日の頃に、兵部卿の匂宮は、〉

 ①K23年 二月二十日のほどに、兵部卿宮初瀬に詣でたまふ
  桜のシーズン、匂宮は初瀬の長谷観音詣での帰りに夕霧の宇治山荘に中宿りする。
  →八の宮の山荘の対岸、平等院の所(橋姫5の解説部分参照)
  
  京から長谷寺へのルートについては玉鬘7参照
  (長谷寺参詣、当時第一の観音霊場
    京-宇治-木津-奈良-椿市-長谷寺 約72KM)

 ②薫から宇治の姫たちのことを聞かされた匂宮、初瀬詣でにかこつけて宇治に泊り機会をうかがう。匂宮は将来の東宮候補、身分柄大行列になる。

  夕霧右大臣、迎えに来られず薫がかけつける。
  (夕霧は竹河で左大臣に昇格したとあるが宇治十帖では右大臣となっている)

2.八の宮、薫たちを歓待 匂宮歌を贈答する
 〈p141 山荘にふさわしく、〉

 ①夕霧宇治山荘では夕方になり楽宴が始まる。
  薫の吹く笛の音が対岸の八の宮に聞こえてくる。
  「これは澄みのぼりて、ことごとしき気のそひたるは、致仕の大臣の御族の笛の音にこそ似たなれ
  →八の宮は薫の出生は知らないが左大臣家の笛の音に聞こえる。
   左大臣-頭中-柏木-薫、、、これが左大臣直系である。

 ②八の宮は対岸の賑やかな様子を羨ましく思い、姫たちの行く末を悩ましく思う。
  姫君たちの御ありさまあたらしく、かかる山ふところにひきこめてはやまずもがなと思しつづけらる。
  →宇治で隠遁生活に甘んじてきた八の宮だが若い姫たちを思うと心が揺らぐ。

 ③はるばると霞みわたれる空に、散る桜あれば今ひらけそむるなどいろいろ見わたさるるに、
  →春爛漫、宇治川の桜と柳

 ④八の宮からの歌に匂宮が歌を返す。
  →積極的な匂宮。そりゃあそのために宇治に泊っているのですから。

 ⑤匂宮は身分が重くて動けない(対岸に渡れない)。薫が使いに行く。
  八の宮山荘では若公達も多数来て久しぶりの大宴会。普段は顔を見せないゆかりの人々も集まってくる。
  →何と言っても八の宮は皇族。

 ⑥対岸に渡れない匂宮はもどかしく歌を持たせるしかない。
  匂宮 山桜にほふあたりにたづねきておなじかざしを折りてけるかな
  中の君 かざしをる花のたよりに山がつの垣根を過ぎぬ春の旅人
  →積極的に訴える匂宮、軽妙に切り返す中の君

 ⑦紅梅大臣が迎えに来て匂宮は心残りながら京に帰らざるをえない。宇治の姫たちへの第一ラウンドはこれにて終了。

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椎本(1・2) 匂宮、宇治に中宿り への4件のフィードバック

  1. 青玉 のコメント:

    椎本(しゐがもと)の意味は八の宮をさすとありますが八の宮を椎の木にたとえたということでしょうか?
    椎の木って結構大木ですから薫は八の宮を尊敬もし頼りにもしていたのでしょうね。

    いよいよ匂宮、宇治への登場、その心はすでにまだ見ぬ姫君への憧れ・・・
    夕霧の宇治別荘の華やかさと対岸の八の宮の侘び住まいが対照的に)描かれていますね。

    到仕の大臣を連想させる笛の音が川の流れにのって聴こえてくる・・・
    そう言えば一条御息所から夕霧に贈られた柏木遺愛の横笛は源氏に託されたままなのでしょうか?
    ひょっとしてこの笛は源氏から薫に渡ったのでしょうか・・・

    時は霞立つ春爛漫の折、
    積極的な匂宮の贈歌に中の君は「行きずりの旅人」であるとうまく交わしましたね。

    それにしても八の宮、俄かに若き貴公子が二人も現れて年頃の姫君を持つ父親として婿にと下心は働かなかったのでしょうか?ちょっと不思議です。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.椎(の大木)は宇治を象徴する景物であり薫が道心の拠り所となずらえていた八の宮を表す言葉として使われたのでしょう。後出の薫の歌「立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本、、、」から巻名にもなっていますね。椎って大きくなるとすごいですもんね。いい言葉、いい巻名だと思います。頼りない八の宮にはちょっと似つかわしくないですけどね。

      2.柏木遺愛の横笛は源氏から薫に渡り今は薫が所有しているのだと思います。どういう経路でいつ薫の手に渡ったのかは物語には書かれてなかったと思います。源氏→冷泉院・秋好中宮→薫と考えるのが妥当でしょうか。変化球なら源氏→女三の宮→薫も面白いかも。

  2. 青黄の宮 のコメント:

    匂宮の歌は2首とも率直で積極的。正直で良いですね。最初の歌は八の宮への返歌なので、さらりとお親しくしていただいきたいとの思いを伝え、次の姫君あての歌では見事な桜の枝に添えて、姫君の美しさを讃えつつ、皇族仲間であることをリマインドする。そして「野をむつましみ」などと血のつながる親しさを強調したちょっとエロティックな添書きも付ける。このように相手を見て、戦略的に歌い分けられるのは匂宮のセンスの良さや頭の良さを表しているような気がします。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。さすが色好みの士には匂宮の心が解るのですね。私なんぞには及びもつかない見事な読み解きだと感心します。

      八の宮は零落したとはいえ皇族の一員、匂宮にとっては大叔父ですもんね。
      第一の歌は「貴方も皇族倶楽部のメンバーじゃないですか、そんな所に引っ込んでないで交流しようじゃないですか」というまあジャブみたいなものでしょうか。

      そして第二の詠みかけがすごいんですね。「野をむつましみ」、やる気満々を伝えている訳ですか。なるほど。センスの良さ・頭の良さそして何より美しい女性を求めて止まない情熱でしょうかね。好きこそ物の上手なれ、、、。

      こんな詠みかけに八の宮には敏感に対応してもらいたいもんですけどね。

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